Example 12. 日食の計算問題




Example 12.
IV 10. Given year and month and place, compute solarr eclipse.
Example:
    Date: Nabonassar 1112, Thoth[I], Alexandria.

問題は「Nabonassar 1112年1月(364/06/16)の日食を計算せよ。」です。
G.J.Toomerは「Almagest」には日食の例題がないので、Theonが観測し記述した「Theon's small commentary on the Handy Tables」から取ったとしています。


「Almagest」には太陽と月の黄経が一致する日時とその時のパラメータの表があります。
 「IV3. Table of conjunction and oposition」 (「Ptolemy's Almagest」p.278-80)
 しかし、直接計算する方がプログラム的には簡単なので直接計算します。

 【経合日時の計算】
 EXample 11より月食(満月)の場合の条件は以下となります。
 暦元から観測月までの日数≦8.9726523+29.5305942×n となる最小の整数のnをもとめれば
 経合の日が計算できる。
 日食(新月)の場合半月先なので8.97日に29.5305942/2を加えます。
 従って条件は日食(新月)の
 経合(新月)の日=8.9726523+29.5305942/2+29.5305942×n=23.7379494+29.5305942×n

 例題の日付を求めると、暦元から観測月までの日数=365×(1112-1)+30×(1-1)
 365×1111=29.5305942×n
 n=13731.22なので n=13732
 日付=(23.7379494+29.5305942×13732)-365×(1112-1)+1=23.8575
                          (Nabonassar 1112年1月24日8;34.8am)
                        【例題11の表から求めた値は1112年1月24日8;34am】
 
 【経合時刻の計算】
 例題では月食と同じく経合の表から読み取ったの値をもとに(θ-c)/12.19075をもとめています。
 ここでは月食と同様にイスラム天文学の方法で直接計算します。方法としては、当日正午と
 翌日正午の太陽と月の位置から黄経の差分Δλと月が太陽を捕らえる実質速度(ν)を計算すると
 
 Δλ=太陽黄経-月黄経                     
 ν =(翌日月黄経-当日月黄経)- (翌日太陽黄経-当日太陽黄経)
 正午からの経合の時刻=Δλ/ν                  
 となります。
                            太陽位置    月の位置
 Nabonassar 1112年1月24日正午       82.6170°     81.3691°
 Nabonassar 1112年1月25日正午       83.5643°     95.6927°
 
 Δλ=太陽黄経-(月黄経)=82.6170-81.3691=1.2479(°)
 ν =(翌日月黄経-当日月黄経)- (翌日太陽黄経-当日太陽黄経)
   =(95.6927-81.3691)- (83.5643-82.6170)
   =14.3236- 0.9473 =13.3763(°/day)
 正午からの経合の時刻=Δλ/ν=1.2479/13.3763×24.0=2.2389( 2;14pm)
                        【例題12の表から求めた値は 2;26pm】
 
 【均時差の計算】
 ここで視差の計算のため均時差を計算し加える必要があります。
 暦元からの日数が405538日なのでこれで計算すると約23分となり
 合計で経合の時刻は正午より 2;14+23= 2;37pmとなります

 【視差補正の計算(1回目)】
 ここで例題10の日食の場合で視差を計算すると以下です。
 zenith2 = 35.9292°, angle2 = 16.9883°, para_lon = -0.5773 °
 ここで再度 2;14pmで位置計算をすると以下になります。
                            太陽位置    月の位置
 Nabonassar 1112年1月24日 2;37pm     82.7053°   82.6907°
 これにより、
 Δλ=太陽黄経-(月黄経+視差)=82.7053-(82.6907-0.5773)=0.5919(°)
 2;37pmからの経合の時刻=Δλ/ν=0.5919/13.3763×24.0=1.0619
 正午からの経合の時刻=2.2389+1.0619=3.3008( 3;18pm)
 
 【視差補正の計算(2回目)】
 ここで2回目の視差の計算をします。時刻は=3;18pm+23分=3;41pm
 zenith2 = 49.0840°, angle2 = 17.6877°, para_lon = -0.7382°
 ここで再度 3;18pmで位置計算をすると以下になります。
                            太陽位置    月の位置
 Nabonassar 1112年1月23日 3;18pm     82.7472°   83.3212°
 これにより、
 Δλ=太陽黄経-(月黄経+視差)=82.7472-(83.3212-0.7382)=0.1643(°)
 3;18pmからの経合の時刻=Δλ/ν=0.1643/13.3763×24.0=0.2948
 正午からの経合の時刻=3.3008+0.2948=3.5956( 3;36pm)
 
 【視差補正の計算(3回目)】
 ここで3回目の視差の計算をします。時刻は=3;36pm+23分=3;59pm
 zenith2 = 52.7413°, angle2 = 18.1629°, para_lon = 0.7748°
 3;36pmで位置計算をすると以下になります。
                            太陽位置    月の黄経
 Nabonassar 1112年1月23日 3;36pm      82.7589°    83.4964°   
 これにより、
 Δλ=太陽黄経-(月黄経+視差)=82.7589-(83.4964 -0.7748)=0.0373(°)
 3;36pmからの経合の時刻=Δλ/ν=0.0373/13.3763×24.0=0.0669(4分)
 正午からの経合の時刻=3.5958+0.0669=3.6627( 3;40pm)

 変化分が小さくなったのでこれで繰り返し計算はやめて日食の諸元を計算します。
 【日食の諸元の計算】
 ここで最終の視差の計算をします。食甚時刻=3;40pm+23分=4;03pm
 zenith2 = 53.5719°, angle2 = 18.2709°, para_lon = -0.7825°, para_lat = -0.2682°
 3;40pmで位置計算をすると以下になります。
                            太陽黄経    月の黄経    月の黄緯
 Nabonassar 1112年1月23日 3;40pm     82.7615°    83.5361°    0.6437°
                                    ω=277.2821° α=137.8296°
 
 視差を考慮した月の黄緯=β+para_lat=0.6438-0.2682=0.3756(22.53分)
 例題9の"Table V8. Table of the complete Lunar Anomaly"のω(2)とLatitude(7)の関係から
 黄緯22.53分に対するωは、
 ω=277.0+(276-270)×(22.53/32.0)=274.2244°
 
 ここでω= 274.2244°、α=137.8296°で表から値を読みます。
 最初にωをパラメータとしてGreat Distance及びLeast Distanceから値を読みます。
 さらにαをパラメータとしてCorrectionから値を読みます。
 
 [Great Distance at ω= 274.2244°]
 食分[digit(3)]= 3.5509
 食継続時間[mintes of Immersion(4)]=22.2224
 
 [Least Distance at ω= 274.2244°]
 食分[digit(3)= 4.3509
 食継続時間[mintes of Immersion(4)]= 25.0111
 
 [Correction at α= 137.8296°]
 Correction=51.5889(/60.0)=0.8598
 
 以上の結果をもとに計算すると、
 食分=3.5509+( 4.3509-3.5509)×0.8598=3.5509+0.6879=4.24
 食継続時間(分角)=22.2224+(25.0111-22.2224)×0.8598=22.2224+2.3977=24.620(分角)
 食継続時間(分)=食継続時間(分角)/速度(ν)=24.620/(13.3763/24)=44.174(分)=0;44(分)
                                            【例題12の値は48分】
 
 【日食計算のまとめ】
 以上の計算により、
 
 日食開始: 3;19pm
      (4;03-0;44)
 食甚時刻: 4;03pm
 日食復末: 4;47pm
      (4;03+0;44)
 食分  :約4 1/4
 
 【G.J.Toomerの結果: 部分食開始: 3:30pm 食甚: 4:18pm 復末: 5:6pm 食分:4;49】
 【Theon の結果   : 部分食開始: 3:32pm 食甚: 4:20pm 復末: 5:8pm 食分:4;39,18】
 
 この日食(364/6/16)は現代の計算(Emapwin)でアレキサンドリアにおいて、
 部分食開始: 3:15pm 食甚: 4:09pm 復末: 4:59pm 食分:0.341
 (時刻はLMT、均時差(23-18=約+5分)補正済)
 
 注:Toomerの食継続時間等に使う速度は以下の方法で計算しているが、
   実計算に較べ違いが大きいようなので上記計算では使用していない。
  具体的にはまず、EX.9のTable V8. Table of the complete Lunar Anomalyをαをもとに計算する。
  c0=(Epicyclic Equation (4)の変化量)/(αの変化量)
  例えばα= 137.8296°の場合、
  c0=(3;46-3;35)/(138-135)=11/3
  Moons Hourly Speed=λα×c0/60=(0;32,56)-(0;32;40)×(11/3)/60=0;34,56
  太陽との相対速度sm0=0;34,56×(12/13)×24h=12.8985°/day
  これに較べて食甚時刻前後1時間の実相対速度=13.2940°/day


2016/03/23 Up
2016/03/24 修正
2016/03/26 修正

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