3. ダスト・トレイル計算事始




 2、3日前にグーグルで数値積分関係を検索していたところ流星の出現予測に使う彗星のダスト・トレイルというのを数値積分で計算しているようなので調べ始めてみた。最近の「天ガ」や「星ナビ」にもダスト・トレイルで流星を予測した記事はあったが具体的計算法については情報無し。とりあえず参考になりそうなのが以下のページ。

@ダストトレイルモデル:このページで以下の定性的なことは分かる。しかし計算方法は不明。
1)母彗星から放出されたダストは、母彗星とほぼ同じ軌道で太陽の周りを公転している。
2)母彗星の前方に放出されたダストは、母彗星の軌道よりわずかに大きくなり、後方のダストはわずかに小さくなる。
3)大きいダストは太陽光圧に影響を受けにくく母彗星の近くに存在する。
4)ダストも惑星からの摂動の影響を受ける。
5)ダストトレイルの中心は精確に計算できるが、広がりは太陽光圧の影響で時間の経過に伴い拡散する。

A流星群予報 : 彗星ダストトレイルの軌道計算:この資料「3. Dust Trail の軌道進化計算」に以下の計算方法の記載がある。
「ダストトレイルの軌道計算は,母天体である彗星の軌道要素を用いて行う.母天体の彗星が回帰した,それぞれの年に放出されたダストが地球に近接遭遇した際のx(進行方向)-y(動径方向)軸方向の距離を算出する2次元計算.回帰を挟んで前後500日の間において,50日おきに放出速度を算出する3次元計算.3次元計算の結果を用いてx-y軸方向の値の他にz 軸方向の値を算出する4次元計算以上の結果でもって,地球に対して、ダストトレイルが近接遭遇する時刻から流星群の予報を行う.」
しかし、発表用に簡略表記されているためか理解しにくい。

BThe 2004 June Bootid meteor shower :この資料のTable 1に各研究者の計算モデルが比較されている。
1)Ejection Velocity(放出速度):    -50m/s〜+50m/s or -30m/s〜+30m/s
2)Direction of ejection(放出方向):  ±V comet (彗星の進行方向及びその逆方向)
3)Point of ejection(放出点):     q(近日点通過日) or ±100d aroud q (q前後100日) or q±3au
4)Non-gravitational forces(非重力効果): no(考慮せず) or 考慮


 昔読んだ流星の記憶だと、彗星が通った道に残った塵に地球がぶつかり流星になるという定性的な話だったと思うが。しかしダストトレイル理論では、近日点近くで彗星の前後に数m/sのゆっくりとした速度で放出された塵が彗星と同じく太陽の引力と惑星からの摂動を受けて太陽を公転していてそれと地球がぶつかることで流星になるということらしい。それであれば適当な初期値をあたえることで彗星の数値積分を計算するソフトでそのまま計算できることになる。

ということで、試しに資料A Table2にある、289P Blanpain(ブランパン彗星)の1840年の回帰(n=34)に伴うダストの計算をしてみた。上記の考えが正しければ、Table2にあるように、ブランパン彗星から1840/7/9.33(近日点通過時)に-3.665m/sで放出されたダストが、2014/12/2に0.000806AUまで地球に近づくことになる。

(1)彗星の軌道要素の取得
IAUのMinor Planet Centerにアクセスして"289P"でサーチすると。289P/Blanpain の軌道要素と観測データが表示される。1840年に回帰したときの軌道要素は以下となっている。
  近日点通過時刻       :2393295.8290(1840/07/09.329) ←資料Aの放出時刻と同じ
  近日点引数ω(PERI/Somg) :349.8577°
  昇交点黄経Ω(NODE/Omg) :79.8729°
  軌道傾斜角i (INC)      : 9.2607°
  近日点距離q (QDIS)     : 0.879678(AU)
  軌道離心率e (ECC)      : 0.705073

(2)彗星の速度の計算
 軌道要素をもとに彗星/小惑星の軌道要素から座標/速度の計算のソフトで彗星の初期値を計算すると以下になる。

//289P/Blanpain EPOCH:1840-06-24.0
//2393295.82900000
//349.85770000
// 79.87290000
// 9.26070000
// 0.87967800
// 0.70507300
//Px= 0.3441753 Py= 0.8723087 Pz= 0.3473052
//Qx= -0.9254440 Qy= 0.2527651 Qz= 0.2822468
EPOCH=2393296.5000;
CD[I][16][1]= 0.287862505857; CD[I][16][2]= 0.771337455916; CD[I][16][3]= 0.310022379415;
VL[I][16][1]=-0.022249779667; VL[I][16][2]= 0.005829128725; VL[I][16][3]= 0.006669817940;
AMASS[16]=0.0;

小惑星の初期値の関係で近日点通過日とは若干違うが影響は少ないと思う。(たぶん)

ここでダストの速度はVcomet(彗星本体の速度)−3.665m/sなので、まず単位のm/sを、数値積分に使っているAU/Dayに変換すると、
−3.665m/s=−3.665(m/s) x 24(hour) x 3600(sec) /1.495978070e11(m:1天文単位)
        =−2.1167e-6(AU/Day)
また彗星のx,y,z方向の速度をVx,Vy,VzまたVC=root(VxxVx + VyxYy + VzxVz)とすると、単位ベクトルはそれぞれVx/VC,Vy/VC,Vz/VCとなり、それを−2.1167e-6(AU/Day)にかけて彗星の速度に加えると彗星の進行方向と逆方向へ3.665m/sで放出したことになる。

まとめると速度の初期値は以下となる。VC=root(VxxVx + VyxYy + VzxVz)=0.023948より、
VL[I][16][1]=-0.022249779667-0.022249779667/0.023948*(-2.1167e-6);
VL[I][16][2]= 0.005829128725+0.005829128725/0.023948*(-2.1167e-6);
VL[I][16][3]= 0.006669817940+0.006669817940/0.023948*(-2.1167e-6);
位置の初期値は上記のままである。

この初期値で計算すると 2014/11/28に地球と0.0095AUまで近づくという結果が出た。資料Aと若干違うので、速度変化させ最接近の速度を求めると、速度を0.6%UP(-3.665x1.006=3.687m/s)した場合12/2に地球に0.00119AUまで近づくという若干違う結果になった。他の資料「Forecast for Phoenicids in 2008, 2014, and 2019」のtable 1で1840年の結果を見ると、−3.69m/sで0.0013AUとほぼ同じ結果がでており、資料Aの結果は本文にもある通り制限のある計算だったのではないかと思われる。

 この結果により、ダストトレイルは彗星の近日点通過前後で彗星の初期値をもとに、放出速度を少しづつずらしたダストを何点か仮定し、それらのダストを数値積分すれば計算できることになりそうである。

289P/Blanpain彗星ダスト(1840年放出)の計算ソフトのC言語ソース:
adams4_1.0.zip
注:windows上のCコンパイラ(VC等)でコンパイルください。
JPL/NASAのDE431のファイル(lnxm13000p17000.431)がほかに必要です。

==実行結果(計算期間中の太陽(0)/惑星(1-9)/月(10)/小惑星(11-15)との最接近記録)==
 番号3が地球、最接近距離、その時の接近日付(JD)
Position on 2015/ 7/13.0: JD= 2457216.500000 ; Adams, step= 0.50000 day; L1= 2.64
0, 0.87986, 2393297.000, 1840/ 7/10
1, 0.59469, 2445257.500, 1982/10/15
2, 0.22749, 2410581.000, 1887/11/ 5
3, 0.00119, 2456994.000, 2014/12/ 2
4, 0.19536, 2443298.500, 1977/ 6/ 4
5, 0.25562, 2449899.500, 1995/ 7/ 1
6, 4.93319, 2425126.500, 1927/ 9/ 3
7, 13.89714, 2415389.500, 1901/ 1/ 5
8, 25.23618, 2444346.000, 1980/ 4/16
9, 25.04539, 2449859.500, 1995/ 5/22
10, 0.00078, 2456993.500, 2014/12/ 2
11, 0.33440, 2408424.000, 1881/12/ 9
12, 0.16078, 2428206.500, 1936/ 2/ 8
13, 0.10948, 2405012.000, 1872/ 8/ 6
14, 0.30724, 2394916.500, 1844/12/16
15, 0.52086, 2450848.500, 1998/ 2/ 4

プログラム実行時間 [14 SEC]


2015/05/30 Up

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