1. 漏刻の基礎




 まず漏刻の解析に必要な定理の説明です。

タンクから流出する水の流出速度の計算
 右図のような水槽にその断面積に比べて十分小さい穴を開けた場合、 その穴から吹き出す水の流出速度は、
v(m/sec)=root(2*g*h)----(1)
で計算できます。gは重力加速度(9.81m/s2)、h(m)は水面から穴までの高さです。
これをトリチェリの定理と呼びます。ベルヌーイの定理の特殊形です。

例えば、h=20cmと仮定すると。水の流出速度は
v = root(2.0 * 9.81 * 0.2)= 1.98m/s =1.98*100*60=11880 cm/minです。

タンクから流出する水の流量の計算
 タンクの下部に開けた穴の直径をdとすると、
穴の断面積 s=π*(d/2)^2 cm2 (注:^はべき乗を表す)
穴の直径を1mmとすると、s=π*(0.1/2)^2=0.00785 cm2
水の流出量u(cm3/m)=v * s = 11880 * 0.00785 =93.26cm3/min(cc/min)
ただし、これを実験で実測すると2割ぐらい減少します。この率を流量係数Rと呼びます。
流量係数Rは個々の実験で求める必要がありますが、本HPの試算ではR=0.8を仮の値として使用します。
流量係数を考慮した計算式では、
流出量u(cm3/m)=v * s *R= 93.26 * 0.8= 74.6 cc/min ----(2)

タンクから流出する水の総量の計算
 今回は一日の時間を測る漏刻を検討します。(1)式により流出する水量は水位hの高さで減少していきますが、水位hを保つように水が補給された場合、流出する水の量は一定となります。その総和は、
一日の水の総量=74.6cc/min * 60m *24h=107,424cc = 約107リットル---(3) となります。
4段漏刻の第4段はこの状態に近くなります。

水受けタンクの設計
 上記の水槽から流出する水を受ける水受けタンクでの目盛を1日で100cmとすると、
 水受けタンクの断面積A(cm2)は、
A=107424cm3/100cm=1074.24cm2= 32.8x32.8 ----(4)
四角形のタンクとした場合、必要なタンクは一辺が約32.8cm高さが1m+αとなる。

水受けタンクの水位変化量の一般形の計算
断面の直径(d)、流量係数(R)、水位高(h)を変数とする一般式を計算します。
水位変化量 dH= 流出量u(cm3/m) / 水受けタンクの断面積A(cm2) = v * s *R / A
 = root(2*g*h)*100*60 * π*(d/2)^2 *R / A (cm/min)
 = root(2*g)*100*60 * π/4 /A * R * root(h (m)) *d^2 (cm/min)
 = root(2*g)*100*60 * π/4 /A * R * root(h (mm))/root(1000) *d^2 *10 (mm/min)
 = root(2*g)*root(10)*60*10 * π/4 /A* R * root(h (mm)) *d^2 (mm/min)
N = root(2*g)*root(10)*60*10 * π/4 とおくと、
 = 6600.71 となり、一般式は、
水位変化量 dH(mm/min)= N /A * R * root(h (mm)) *d^2 (mm/min) ----(5)

なお有明高専の論文p.84のプログラムではN=0.91152を使用しているが、これは内径96mmのパイプを想定して計算に含めているため。
 Na = N/A = 6600.71/(3.14159*48*48) = 0.911924

最初の図の水槽の水の補給をしない場合は(4)式に従い水位が減っていくことになる。
漏刻の基本設計はこれでほぼ終了。実際作成する場合には、用意する水槽のサイズ、加工できるサイホンの穴のサイズ、 流量係数の測定等で最終パラメータを決めていく。また有明高専の論文の場合には第1段の水槽からの流量が多くなるように穴のサイズを一割方大きく設定してある。

以下の表は上記計算のまとめ。丸めの関係で若干数値は違う。


2018/10/29 有明高専のNの説明追記
2017/10/20 Up

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