10. オーバーフロー型二段漏刻




 ここでは宋代に開発されたオーバーフロー型二段漏刻の検討をします。

オーバーフロー型二段漏刻
 構造としては右図となります。通常の2段式と違うのは第2槽の途中に排水口がついていることです。排水口によりこの位置より水位は上がらないことになります。
ここで各槽のパラメータは最初に設計した値の通りとします。(断面積=32.8cmx32.8cm、d1=d2=0.1cm、H2=200mm) 各槽の水位の計算は以前計算したように以下となります。

各水槽の水位の計算
第1水槽の減水量q1(mm):q1=N/A*R1*d1*d1*root(h1+H1)*dt
第2水槽の減水量q2(mm):q2=N/A*R2*d2*d2*root(h2+H2)*dt
従って、第2槽の水位は以下となります。
h2=h2+q1-q2
=h2+N/A*R1*d1*d1*root(h1+H1)*dt-N/A*R2*d2*d2*root(h2+H2)*dt

ここで(h1+H1)>(H2)であればh2>0となります。従ってH1=H2=200mmとすれば、h1が0になる前に給水してやればこの条件は保たれます。

24時間計の場合、第1槽は13時間ぐらいで空になるので、厳密な管理無しに数時間おきに給水してやれば、各水槽の水位の調整が全く必要ない精確な水時計となる。(水温一定の場合)

渋川景佑の漏刻
 先に失敗例としてあげた江戸時代の天文方の渋川景佑(1787-1858)の漏刻は3段式になっており、上記原理からすると3段目は全く必要ないもので、かえって悪影響を与えた可能性もある。第1槽の流出量が第2槽の流出量より多ければ、余分な水が常時排水口から排出され第2槽の水位は排出口の水位で一定となる仕組みで、受水槽の水位の変化に変動がでることは無い。
 3段にするメリットは排水量が減ることにあると思うが、水位調整が必要で、条件によっては第3槽の水位が排水口より下がってしまう問題も出てくる。また給水でもバランスを崩してしまう可能性もある。

宋代の漏刻図にある受水壺
 宋代の漏刻図に中間が太い受水壺が描かれているが、斉藤国治氏も指摘しているように「壺」をイメージして描いた絵師の間違い。受水槽が球面であればオーバーフロー型を採用している意味がない。
 

 


2017/10/25 Up

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