11. 漏刻の段数が増えた理由と天体観測




 ここでは漏刻の段数が増えた理由を検討をします。

 改善版の漏刻の誤差を表にすると以下になります。この誤差を改善するために段数が増えたことは明白です。しかし、この誤差を検出するためには0.5分以内の精度を持つ「標準時計」が必要なことも明白です。時計の校正にはそれ以上の精度を持つ時計が必要なことは常識ですが、古代の議論になるとその点が抜け落ちてしまいます。

段数による精度の向上
段数1段2段3段4段
誤差108分8.1分2.3分0.5分

 例えば日時計の正午の時刻で校正したという話がありますが、砂時計のように1段の漏刻でも24時間計としては精確です。漏刻の問題はシミュレーションで分かったように1時間毎の時刻の誤差が数時間あることです。この誤差を日時計で精確に測定することは出来ません。シミュレーションから初期水位のmm単位での微妙な調整も必要ですが、これにも1時間の計測が精確にできる「標準時計」が必要です。

 ではこの「標準時計」に何を使ったかですが、その答えは天体(太陽や星)です。天体は全天を360度とすると1時間に15度動くので、軸を天の北極に向けた赤道儀で15度を測れば一時間になります。例えば江戸時代の渋川春海の作った測天用の渾天儀には0.5度単位の目盛があったので、仮に0.1度の精度で測れたと仮定するとその精度は約0.4分となり、上記4段漏刻の誤差とほぼ一致します。逆にこれ以上段数を増やしても「天体時計」ではその誤差を測れません。これが漏刻の段数が4段で止まった理由です。 この程度の誤差の渾天儀は中国・漢代には実在しており、それで測定した星表が伝えられています。

 天体観測による時刻の精度=24時間x60分/365.25度(中国度)x0.1度=0.39分
(中国では太陽の動く角度を1度/1日としたので、全天一周の角度は365.25度となる )


漏刻と天体観測
 上記理由から漏刻の設計/製作/調整/設置や運用には天体観測による時刻の計測が必須なのです。
 

 


2017/12/17 加筆
2017/10/26 Up

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