国立民族学博物館のサイフォン式3段漏刻シミュレーションの再現



 ここでは国立民族学博物館のサイフォン式3段漏刻シミュレーションの再現について考える。

1. はじめに

 この件に関しては,以下のコメントを掲載していたが,誤解があるといけないので,同じ3mmのパイプで再現する。なお,国立民族学博物館のサイフォン式3段漏刻は,4時間の漏刻を一日に6回サイクルを回すというものであり,展示という目的以外実用性はない。この漏刻は1サイクルに72リットルの水を消費するので,一日に432リットル,およそドラム缶2本分の水の移動が必要となるため,古代に使われた可能性は全く無い。古代の複数段の漏刻はこのサイズで24時間測れることが基本である。したがって,本来はこの再現自体が全く意味の無いことである。
 前回との違いは以下に書いているように,ノズルを使用しているかどうかである。1.5mmのノズルを使用したパイプの流量と3mmの両側とも同じ口径のパイプの流量はほぼ同じである。さらに高さも違うので流量は同じである。
 前回: 1.5(口径)x1.5x1.0(流量係数)=2.25 with 高さを200⇒0mmで計算。
 今回: 3.0(口径)x3.0x0.2277(流量係数)=2.05 with 高さを300mm⇒100mmで計算。

付録 国立民族学博物館のサイフォン式3段漏刻シミュレーションの復元
 国立民族学博物館のサイフォン式3段漏刻シミュレーション結果からシミュレーションプログラムを再現してみた。
 条件としては、パイプの内径が3mm。1段目の水槽に4時間毎に水を72リットル供給。(3600cm2x20cm)
 各水槽の面積は上の3個が3600cm2、受水槽が5400cm2。 各水槽の段差が30cmとなっている。

 この条件でやってみたところ、内径3mmでは流量が多すぎてすぐに空になってしまうことが判明。
 ということで、一段目のパイプの内径を半分の1.5mmとし、二段目、三段目はそれより若干大きい1.6mmとして実行した。
 項目2と同様の方法で調整した結果としては、流量係数を1.0とした場合、H=318mm,I=311mm,J=315mmとなった。
 最大誤差=24秒/24時間。したがって短時間の漏刻(この場合4時間計)では3段でも1分以内の誤差が実現できる。
 しかし、4時間計の漏刻の調整には当然ながら4時間を測れる校正用の時計が必要となる。

 3段式サイフォン式漏刻シミュレーションソフト:waterclock_16_03.c

 国立民族学博物館との結果の違いは、このシミュレーションでは片側が細いノズルを使用しているため。
 国立民族学博物館のサイフォンは両側とも口径の同じパイプを使用しているので流量係数が悪化している。


2. 一段目の再現

 このような漏刻の再現方法は同じであり,まず1段目が所定時間内に,所定の水量を流す条件により,パラメータが決まる。この漏刻の場合,一段目は4時間で,水面が30cmから10cmになるまで排水する必要がある。水槽の断面積とパイプの直径も決まっているので,この条件から流量係数が求まることになる。結果として0.2277という値を得た。ノズル方式の場合0.8前後なので,その1/4ということになる。

 単純に流量係数を推定した結果では0.45なので,実際にはその半分程度ということになる。

 次に,3水槽ともに同じ流量係数でおこなった場合,平衡させるためには,水面高度を30cmから増す必要がある。しかし,国立民族学博物館の場合は30cm固定である。したがってそのかわりに,流量係数で調整したと考えられる。中段のパイプの長さが80cmから15cm切ってあるのはこのためと考えられる。なお,下段はパイプを切ってないが,これは水槽の底との差で調整したのではないかと思われる。これは説明が無いので実際のところはわからない。シミュレーションでは中段を0.28986,下段を0.29146とすることで,同じ30cmのままで運用できるようになった。

 なお図1のように受水槽の水をはかさないと12時間で下段の水槽の底(40cm)に届いてしまう。したがって,システムとしても半日しかもたない設計である。

3. シミュレーション結果

図1 各水槽の水位と誤差
時間 上段水槽(cm) 中段水槽(cm) 下段水槽(cm) 受水槽(cm) 誤差(分)
0.000 130.000 100.000 70.000 0.000 0.000
1.000 124.615 100.395 69.992 3.332 0.030
2.000 119.488 100.503 70.004 6.669 0.050
3.000 114.622 100.361 70.013 10.002 0.060
4.000 109.997 99.999 70.000 13.335 0.000
4.000 130.000 100.000 70.000 13.335 0.070
5.000 124.615 100.395 69.992 16.667 0.030
6.000 119.504 100.503 70.004 19.993 0.050
7.000 114.638 100.362 70.012 23.326 0.060
8.000 110.012 100.001 70.000 26.659 0.000
8.000 130.000 100.000 70.000 26.659 0.070
9.000 124.615 100.395 69.992 29.991 0.030
10.000 119.496 100.503 70.004 33.323 0.050
11.000 114.630 100.361 70.013 36.656 0.060
12.000 110.005 100.000 70.000 39.988 0.000
12.000 130.000 100.000 70.000 39.988 0.070
13.000 124.615 100.395 69.992 43.320 0.030
14.000 119.496 100.503 70.004 46.652 0.050
15.000 114.630 100.361 70.012 49.985 0.060
16.000 110.005 100.000 70.000 53.317 0.000
16.000 130.000 100.000 70.000 53.317 0.070
17.000 124.615 100.395 69.992 56.649 0.030
18.000 119.496 100.503 70.004 59.981 0.050
19.000 114.630 100.361 70.012 63.314 0.060
20.000 110.005 100.000 70.000 66.646 0.000
20.000 130.000 100.000 70.000 66.646 0.070
21.000 124.606 100.395 69.992 69.983 0.030
22.000 119.488 100.503 70.004 73.315 0.050
23.000 114.622 100.361 70.012 76.648 0.060
24.000 109.997 99.999 70.000 79.981 0.000

国立民族学博物館漏刻シミュレーションソフト:waterclock_19_01.c

図1 各水槽の水位

4. まとめ

 以上国立民族学博物館漏刻の再現検討を行ったが,何れにせよ口径1mm前後のパイプで24時間計をめざさないと,古代の漏刻の復元にはならない。なぜ四時間計の見せかけの漏刻にしたのか意味不明である。

 古天文学を創設した斎藤国治でも,江戸時代の再現実験の失敗を見て漏刻に不審をもっているが,原理からすると,水槽の表面積にくらべて十分小さな口径のパイプであれば一段の漏刻でも正確な時刻が刻める。ここにも,日本では江戸時代以降の天文しかまともに評価されていない実態がある。



2021/07/05 Up

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