中国の回回暦法のようにイスラム天文学の天文計算書の日食時の視差の計算には、太陽の黄経と真太陽時(太陽が正午に天頂)をパラメータ
にした視差補正表があります。（以下の右の欄。例はλ＝90°：夏至の値) これは日食時には太陽と月がほぼ同じ位置にあることを利用したものです。
藪内清著「改訂増補 中国の天文暦法」ではイスラム天文学による回回暦法の視差の立成について
「この表は、十二宮で示した太陽の経度と真太陽時とを２重引数として構成されている。このような２重引数の使用は『アルマゲスト』になく、
イスラム学者による計算技術の改良といえよう。」(p.222)とあり、イスラムオリジナルなのかと思ってました。
しかし、プトレマイオスの『Handy Tables』に既にこの２重引数の表はあったようで以下の表の値(真ん中の欄)が記載されているようです。
イスラムの学者はプトレマイオスの値をさらに改良したようで回回暦法とは違いがあるようです。
ここでは、プトレマイオスの『Handy Tables』の計算方法をHAMA(vol.2 p.990-2)を参考に示します。
[Handy Tableの日食の視差計算]
ここでは午後1時(Hour=+1)の計算例を示します。
表の[Zenith distance and Ecliptic angle]より、Arc＝14;56なので,
AlmagestのParallax表からコラムの(2)と(3)を読むと。
Sun's parallax(2)＝42＋(48－42)/(16－14)×(14;56－14)＝42＋2.8＝44.8000（秒）
Moon's parallax(3)＝13;10＋(1;50)/(16－14)×(14;56－14)＝13;10＋0;51.333＝14.0222（分）
parallax総合＝Sun's parallax(2)－Moon's parallax(3)＝14.0222－44.8/60.0＝13.2756（分）
(注：従ってコラム(4)の値は省略しています。)
表の[Zenith distance and Ecliptic angle]より、Angle=30;0°より
Pλ＝parallax総合×cos(Angle)＝13.2756×cos(30°)
＝11.4970°(11;30°)【『Handy Tables』では12°】
Pβ＝parallax総合×sin(Angle)＝13.2756×sin(30°)
＝ 6.6378°( 6;38°)【『Handy Tables』では 7°】
【Cancer(λ=90°)での値】
| Hour | Zenith distance
and Ecliptic angle | Ptolemy's
Handy Table
(Lower Egypt 30;22°) | 回回暦
(南京:30°近辺) |
| Arc(°) | Angle(°) | Pλ(分) | Pβ(分) | Pλ(分) | Pλ
(時間：分) | Pβ(分) |
| -7 | 90 ; 0 | 146 ; 28 | 42 | 28 | 40 ; 20 | 107 | 27 ; 15 |
| -6 | 78 ; 15 | 131 ; 49 | 44 | 24 | 41 ; 27 | 109 | 27 ; 55 |
| -5 | 65 ; 55 | 156 ; 0 | 43 | 19 | 42 ; 29 | 91 | 26 ; 42 |
| -4 | 53 ; 14 | 158 ; 51 | 38 | 15 | 43 ; 25 | 92 | 21 ; 48 |
| -3 | 40 ; 19 | 160 ; 30 | 31 | 11 | 39 ; 29 | 85 | 17 ; 45 |
| -2 | 27 ; 23 | 159 ; 38 | 22 | 8 | 31 ; 37 | 68 | 13 ; 45 |
| -1 | 14 ; 56 | 150 ; 0 | 12 | 7 | 18 ; 38 | 40 | 8 ; 52 |
| 0 | 6 ; 31 | 90 ; 0 | 0 | 6 | 0 ; 0 | 0 | 6 ; 56 |
| 1 | 14 ; 56 | 30 ; 0 | 12 | 7 | 18 ; 31 | 40 | 8 ; 52 |
| 2 | 27 ; 23 | 20 ; 22 | 22 | 8 | 31 ; 37 | 68 | 13 ; 45 |
| 3 | 40 ; 19 | 19 ; 30 | 31 | 11 | 39 ; 29 | 85 | 17 ; 45 |
| 4 | 53 ; 14 | 21 ; 9 | 38 | 15 | 43 ; 25 | 92 | 21 ; 48 |
| 5 | 65 ; 55 | 24 ; 0 | 43 | 19 | 42 ; 29 | 91 | 26 ; 42 |
| 6 | 78 ; 15 | 28 ; 11 | 44 | 24 | 41 ; 27 | 109 | 27 ; 55 |
| 7 | 90 ; 0 | 33 ; 32 | 42 | 28 | 40 ; 20 | 107 | 27 ; 15 |
注：回回暦のPλ(時間：分)はPλ/(月と太陽の相対時速(約：12°/24h))で計算してあるものです。
[Angle]:「Ptolemy's Almagest」(1984)p.125
[Ptolemy's Handy Table]:「Verification of parallax in ptolemy's Handy Tables」Jose Chabas and Anne Tihon(1993)p.137
[回回暦]：「李朝実録 第11冊 世宋実録 第五」(学習院大学東洋文化研究所)p450-451
HAMA：A History of Ancient Mathmatical Astronomy by O.Neugebauer(1975)
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