16. 漏刻の初期値設定方法



 ここでは漏刻の水位の初期設定について考える。

1. 玉管式の場合

 玉管式はこれまで検討してきた細い排水口から水を直接排水する方式です。玉管式の場合各水槽が独立しており扱いが容易です。
ここでは「8. 四段漏刻のシミュレーション」のケースで考える。手順としては以下となる。
1) 一段目の水槽が24時間で排水できる高さ(h1)を求める。この場合117mm。
2) 二段目以降はh2=h3=h4=0mmとする。
3) 24時間間隔で全量の給水を繰り返す。
4) h2、h3、h4は最適値に収斂していく。「8. 四段漏刻のシミュレーション」ではh2=125mm,h3=186mm,h4=204mm。

したがって、調整しなくても数日後には最適値になる。

玉管式漏刻シミュレーションソフト:waterclock_16_01.c

 

2. サイフォン式の場合

 サイフォン式の場合、水槽に穴を空ける必要がなく、取替も簡単で水面に波もたたないなどの利点がある.
しかし各水槽が系として連動しているため調整は玉管より手間がかかることになる。

 調整の手順は以下となる。
1) 一段目の水槽が24時間で排水できる高さ(H)を求める。この場合Hの初期水位は玉管式と同じく117mm。
  (サイフォン式の場合一段目の水槽から出る水量の水位は(A+H)ではなく(A+H-B)に比例するので
  24時間で排水するためには最終的にHは117mmより高くする必要がある)
2) 二段目はI=J=K=0mmとする。
3) 一回流してみて24時間後のB,C,D各水槽の残水面の高さをそれぞれI=B,J=C,K=Dとする。
4) 更に24時間後の各水槽の水面の高さを用いてI=(I+B),j=(J+C),K=(K+D)と修正する。これを数回繰り返す。
  この時の水槽1の排水時間をみてHを修正する。
5) 1)〜4)を繰り返し水槽1)の排水が正確に24時間となるHをもとめる。

 以下の図はH=171mmをもとめた後の調整結果。(I=146mm,J=187mm,K=200mm)
 1日毎に水槽の高さの調整を行っている。
 最大誤差は約5分。(玉管式と同じく全体誤差は一段目の誤差で決まってしまう。

サイフォン式漏刻シミュレーションソフト:waterclock_16_02.c

 

3. 付録 国立民族学博物館のサイフォン式3段漏刻シミュレーションの再現

 上記リンク先を参照。

 

4. 初期調整法から想定される飛鳥・水落遺跡の漏刻のタイプ

 項目1,2のシミュレーションからサイホン方式の漏刻は調整が難しいことがわかる。しかし,固定の穴を開ける玉管式は制作や保守を考えるとサイフォン方式に劣る。

 そこで考えられるのが,右図のようにサイフォンの片側を受水槽の水面につけない方式である。これだと玉管式と同様にほぼ無調整で運用が可能である。これにより飛鳥以外の場所への増設も容易であった。

 この場合必要な特殊技術は細管を作る技術だけとなる。飛鳥の水落遺跡には水を通すための細い銅管が埋められて残されている。記事には外径1.2センチ,内径0.9ミリとあるが,断面図より内径は0.9センチの誤りである。このような銅管の先をさらに細くした銅管がサイフォンに使われたと考えられる。

 

5. まとめ

 以上のように漏刻の調整は試行錯誤で行うのではなくノウハウが必要だった。
 天智天皇の漏刻も装置だけが伝来したのではなく、それを調整する人も派遣されてきたと考えられる。
 それにより漏刻の技術の無い日本で保守運用や他の場所への増設も可能になったと考えられる。

 



2020/08/17 項目4追記
2018/11/01 項目3/5追記
2018/10/30 Up

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