Example 11. 月食の計算問題




Example 11.
Given year and month, computation lunar eclipse.
Example:
    Date: Nabonassar 28, Thoth[I] (cf.V9 p.191-2.)

問題は「Nabonassar 28年1月(-719/3/8)の月食を計算せよ。」です。


「Almagest」には太陽と月の黄経が一致する日時とその時のパラメータの表があります。
 「IV3. Table of conjunction and oposition」 (「Ptolemy's Almagest」p.278-80)
 しかし、直接計算する方がプログラム的には簡単なので直接計算します。

 【経合日時の計算】
 EXample 7及び9より太陽と月の経度の計算はそれぞれ以下となります。
 パラメータ        平均速度        初期値(Epoch)      変動分(加減差)
  太陽: λʘ =  (0;59,8,17,13,12,31°) ×day + 330;45(265;15+ 65;30)+  θ
   月: λ =  (13;10,34,58,33,30,30°) ×day + 41;22           +   c

  月食の時にはλʘ +180°=λ となります、従って
   (0;59,8,17°)×day + 330;45+ θ+180=(13;10,34,58°)×day +41;22+ c
  これよりdayを求める。 
   day×((13;10,34,58,33°)-(0;59,8,17,13°))=469;23+ θ-c=109;23+ θ-c +360×n
   day=109;23/(12;11,26,41,20=12.1907469)+360.0/12.1907469×n+ (θ-c)/12.1907469
    =8.9726523+29.5305942×n+ (θ-c)/12.1907469 -------(1)
   これにより最初の経合は8.97日目(日付は+1日)にあり、その後約29.53日毎に起こる
   ことが分かります。また毎回 (θ-c)/12.1907469 ずれます。
 
 ここで例題に戻ると、Nabonassar 28年1月1日は暦元から365×27日です。したがって、
 365×27≦8.9726523+29.5305942×n となる最小の整数のnをもとめれば経合の日となります。
  333.42≦n 従ってn=334
 経合の日=8.9726523+29.5305942×n=8.9726523+29.5305942×334=9872.191115
 日付=9872.191115-365×27+1=18.191115(Nabonassar 28年1月18日4;35pm)
                   【例題11の表から求めた値も28/1/18 4;35pm】
 
 【経合時刻の計算】
 次に例題では経合の表から読み取ったκαωの値をもとに、(θ-c)/12.19075をもとめています。
 ここではイスラム天文学の方法で直接計算します。方法としては、当日正午と翌日正午の
 太陽と月の位置から黄経の差分Δλと月が太陽を捕らえる実質速度(ν)を計算すると
 
 Δλ=太陽黄経+180-月黄経                          -----------(2)
 ν =(翌日月黄経-当日月黄経)- (翌日太陽黄経-当日太陽黄経)-----------(3)
 正午からの経合の時刻=Δλ/ν                         -----------(4)
 となります。
                          太陽位置(+180°)   月の位置
 Nabonassar 28年1月18日正午       343.2946°       338.1569°
 Nabonassar 28年1月19日正午       344.2735°       350.0147°
 
 Δλ=太陽黄経-(月黄経+180)=343.2946-338.1569=5.1377°
 ν =(翌日月黄経-当日月黄経)- (翌日太陽黄経-当日太陽黄経)
   =(350.0147-338.1569)- (344.2736-343.2946)
   =11.8578- 0.9790 =10.8788(°/day)
 正午からの経合の時刻=Δλ/ν=5.1377/10.8788×24.0=11.3343(11;20pm)
 (再度11.3343で計算すると-0.0176(1分3秒)となるので約1分の誤差を含む。)
              【例題11の表から求めた値は11;06pm、本文は11;10pm】
 
 ここで例題の回答【11:06pm】との誤差を検討すると、
 まず例題では、(θ-c)を求め(θ-c)=3;3°と計算しています。
 またその時の月の速度を0;30,24°/時=12.16/日とし、太陽の速度を相殺するために13/12をかけて
 経合の時刻=Δλ/ν=(3;3°)×13/12×(12.16/24)=6.5214(6;31)
 従って正午からの時刻=4;35+6;31=11;06pmとしています。
 ここで違うのは月の時速を(4:35pm)時点の速度を使っていることで
 12.16×12/13=11.22°/日と上記で求めた平均速度より3%程度早いことが差になって出ています。
 この方法でも、もう一回計算すると真値に近づくと思います。
 ちなみに上記で求めた平均速度で計算すると、
 経合の時刻=Δλ/ν=(3;3°)×(10.88/24)=6.728(6;44)
 正午からの時刻=4;35+6;44=11;19pmとなり上記の計算より真値に近づいています。
 
 【均時差の計算】
 ここで均時差を計算し加える必要があります。
 暦元からの日数が9872日なのでこれで計算すると約2.7分=3分となり
 合計で経合の時刻は正午より11;20+0;3=11;23pmとなります
 「Ptolemy's Almagest」の例題ではこの計算をしていません。
 例題で「Almagest」との差が11;10-11;06=4分あるのはこの差の可能性があります。
 
 【月食諸元の計算】
 ここで月食諸元の計算の計算のために経合時刻での月のωとαの計算をしておきます。
 [11;23pm]において、ω= 279.6065、α=12.5248です。
 最初にωをパラメータとしてGreat Distance及びLeast Distanceから値を読みます。
 さらにαをパラメータとしてCorrectionから値を読みます。
 
 [Great Distance at ω= 279.6065°]
 食分[digit(3)]=3-(3-2)/(279;48-279;18)×(279.6065-279;18)
          =3-1/(0;30)×0.3065=3-0.613=2.387
 食継続時間[mintes of Immersion(4)]
          =28;41-(28;41-23;43)/(279;48-279;18)×(279.6065-279;18)
          =28;41-4;58/(0;30)×0.3065=28;41-3.0446=25.639
 
 [Least Distance at ω= 279.6065°]
 食分[digit(3)=5-(5-4)/(279;56-279;22)×(279.6065-279;22)
          =5-1/(0;34)×0.240=5-0.424=4.576
 食継続時間[mintes of Immersion(4)]
          =40;42+(40;42-36;53)/(279;56-279;22)×(279.6065-279;22)
          =40;42-3;49/(0;34)×0.240=40;42-1.6165=39.084
 
 [Correction at α= 12.5248°]
 Correction=0;42+(1;42-0;42)/(6.0)×(12.5248-12.0)=0;42+1×0.5248/6.0=0.7875(分)
 
 以上の結果をもとに計算すると、
 食分=2.387+(4.576-2.387)×0.7875/60.0=2.387+0.029=2.416
 食継続時間(分角)=25.639+(39.084-25.639)×0.7875/60.0=25.639+0.176=25.815(分角)
 食継続時間(分)=食継続時間(分角)/速度(ν)=25.815/(10.88/24)=56.945=0;57(分)
                                         【例題11の値も57分】
 
 【月食計算のまとめ】
 以上の計算により、
 
 月食開始:10;26pm
      (11;23-0;57)
 食甚時刻:11;23pm
 月食復末: 0;20am
      (11;23+0;57)
 食分  :約2 1/2
 
 【G.J.Toomerの結果: 部分食開始: 10:9pm 食甚: 11:6pm 復末: 12:3am 食分:約2 1/2】
 
 この月食(-719/3/8)は現代の計算(Lmapwin)でアレキサンドリアにおいて、
 部分食開始: 9:51pm 食甚: 10:32pm 復末: 11:13pm 食分:0.114
 (時刻はLMT、均時差(3-18=約-15分)補正済)
 
 従って少なくともプトレマイオスの時代(AD100年前後)にはBC8世紀の月食も計算できていた。
 


2016/03/20 Up
2016/03/24 修正
2016/03/26 修正

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