中世の星図・星表・星犯記録による中国の星座の同定




 中国の星座の西洋の星との同定は清代の「儀象考成」をもとにした同定があるがその同定は不完全であることが指摘されている。しかし、星食などにより部分的に指摘したものはあるが、全般的に見直した資料は見当たらない。ここでは清代の同定をベースに、各時代の史料を参考にして、『格子月進図』を中心とした宋代以前の中国星座の同定を行った。 同定に使用する資料(史料)は以下。

【清代の星座】
「儀象考成」の星を同定した資料を使用する。具体的は大崎正次著「中国の星座の歴史」雄山閣出版(1988,3版)の「中国の星座・星名の同定一覧表」に載る、「儀象考成(土橋・伊世同)」の欄及びHR番号を使用。不明とされている星についてはもとになった、伊世同著「中西対照恒星図表」(1981)の旧値を使用して、SAO星表により付近の星で同定した。
各星の同定表の星番は「中国の星座・星名の同定一覧表」の順番で採番した。

【元代の星座】
元代に作成されたとされる潘鼎著『中国恒星観測史」学林出版社(1989)に載る『天文匯抄』の星表を使用。
元期はAD1360年で計算した。

【宋代の星座】
陳遵嬀著「中国天文学史・上」( 明文書局,1984)の「附表1三垣二十八宿三書異同表」に載る《文献通考》、《管窥辑要》及び《灵台秘苑》の三書の距星の比較表より距星の位置情報を得て計算した。
元期はAD1035年で計算した。

【保井春海(渋川春海)の同定】
【保井春海の同定】は中国の星座を観測し観測値を「天文瓊統」(元禄十一年・1698)に残している。渡辺敏夫著「保井春海星図考」(東京商船大学研究報告14号,1963)にその値及び同定した星がまとめられているが、同定した星表[PRELIMINARY GENERAL CATALOGUE OF 6188 STARS FOR THE EPOCH 1900(LEWIS BOSS,1910)] から現代の星表番号に変換するのは時間がかかるため、この論文に載る「天文瓊統」のオリジナルの値から位置を計算した。(渡辺の同定も参考にした。)ただし極周辺は宿度の値を測定していないので、弟子の渋川昔尹作『天文成象』(京都大学理学部数学教室所蔵)から読み取った値を使用した。筆者が作成した星図で比較すると宋代の距星に近い値が多いようである。
元期はAD1690年で計算した。

【格子月進図の星座】(消失した原本の写真の一部分(東京天文台図書室蔵))
土御門家に伝わっていた星図で戦前の空襲で消失したが写真データが残された。元図の写真ではないが、複製された「格子月進図」(国会図書館蔵,1983)の画像を取り込みデータを読み取った。(複製版には格子は入っていない)AD1200年頃の記録にこの星図に使われている星名が出ており、宋代以前の星図の可能性もある。
但し複製図からの読み取りなので、星名がはっきりしている300星程度で比較を行ったところ、28宿の距星に関しては誤差が少ないが、他は赤経方向に最大4度程度、赤緯方向に2度程度の誤差があるので、概略の補正式での補正値を加えて計算している。(補正値は各図下に記載)
元期は誤差が最小のAD400年として計算た。

【小川清彦の同定】
古代の星犯記録による星の同定を行った小川清彦の記録も比較のため使用した。データは天文月報で発表されたものであるが、斉藤国治編「小川清彦著作集 古天文・暦日の研究」皓星社 (1997/08)にまとまっているので、こちらを参照した。

【同定に使用する現代の星表】
目測による観測データなので最新の精度の高い星表を使う必要性はない。また旧来の同定と比較するためにもHR/SAO/バイエル識別子/フラムスティード識別子/星座名のある星図が望ましい。今回の星図は8等までの星(約44,700個)をカバーしていて星座名等の情報もあるSky Catalogue 2000.0の星表(Sky Catalogue 2000.0, Volume 1, Second Edition Floppy disk version (c) 1991 Sky Publishing Corporation)を使用。但しバイエル識別子の(A-Z,a-z)は記載もれがあるので必要に応じて追記する。
星雲については3. 明るい星雲・星団のリスト及びメシエ番号のある星雲のデータを使用。
小川の同定で使用されるDM( Durchmusterung identification)番号はSAOカタログから抽出した8. SAO Star Catalog版 Bright Star Catalogueを検索してHR番号に変換する。
なお北極周辺以外の同定用星図は小川の同定計算に合わせAD1035年で表示する。(北極は400年)従って各星表の赤経/赤緯に各星表の元期からAD1035年までの歳差補正を加えて表示している。ただし古代の星表に固有運動分は考慮できないが眼視観測データの同定には影響しない。 歳差の計算方法はJean Meeus著「Astronomical Algorithms」(Willmann-Bell,1998,2nd)による。



                    


2017/01/20 作成開始
2017/03/11 作成完了
2017/12/08 WEB登録
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